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デジタル地の塩

校長通信

2018/10/18
『ポケットの中にあるもの』~term3の終業にあたって~

ずいぶん昔の話になりますが,私の中学時代の学生服の左外ポケットの中には石川啄木の歌集「一握の砂」を入れていて,事あるごとに取り出しては読んでいたものです。たった三行の言葉が胸を打ったのでしょう。本の表紙がぼろぼろになるまでそこに居つづけました。
高校生になると左外ポケットの中身は,「豆単」と呼ばれる英単語集のポケット本に代わっていました。どうして左外ポケットかというと,片手でさっといつでも取り出せて便利だからです。aから始まる単語を電車通学中に何度も繰り返し覚えたものです。最初に出てくる単語は「abandon」。その意味は「捨てる」とか「あきらめる」だったようですが,「無我夢中」という意味も含まれているらしいと知ったのはずいぶん後のことでした。『豆単はabandonで放棄する』という受験生川柳も昔ありました。そんな受験生の時であっても,内ポケットには「石川啄木の歌集」が入っていたのは,受験生時代を過ごす自分にとってはちょっとした救いだったのかもしれません。大学に入ると左外ポケットの主は「学生版 牧野日本植物図鑑」に代わり,フィールドワークのためか,表紙どころか中身もぼろぼろになるまで酷使しました。その頃の内ポケットには色々なジャンルの単行本が,入れ替わり立ち替わりしていたことを覚えています。
石川啄木の作品が初めて活字になって掲載されたのは,彼が15歳の時でした。皆さんとそう変わらない年齢の時です。そういう意味でも中学生の私が読んでも共感できる内容だったのかもしれません。盛岡出身の友だちがいたこともあり,私が10代最後の年に,石川啄木が過ごした場所を巡る計画を立て,岩手・盛岡を旅しました。啄木が代用教員として教鞭をとった渋民小学校の教室に入ってぼろぼろの黒板に向かってみたり,机と椅子が一つになった二連の椅子に座ってみたり,不来方城(こずかたじょう)跡の公園で啄木と同じように草の上に寝転んだこともありました。『不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし十五の心』大人になった啄木が昔を思い出して作った有名な短歌なので皆さんも一度は聞いたことがあるでしょう。色々なところに歌碑があり,私にとっては本当に楽しい旅でもありました。
さて,私の話はここまでにして表題の「ポケットの中にあるもの」の話に移りましょう。ポケットの中に入れるものにはどんなものがあるでしょうか。いつも必要なものでさっと取り出せるもの,今,なくてはならないもの,いつも身につけておきたい大事なもの,自分を元気づけたいもの,などなど。ポケットの中にはそんなに多くを入れることはできないけれど,大事なものをそおっといつも入れておきたいものです。
洋服のポケットに入れるものには物理的に限界がありますが,人それぞれに「大事にしたいもの」を沢山持っていると思います。それを心のポケットに詰め込んでいつでも取り出せるようにしたいものです。心のポケットには限界がありません。これから先も「大事なもの」を沢山見つけて,沢山詰め込む。そして,いつか大人になった時にそっと取り出せるようにしておく。学生時代は色々なものをポケットの中に詰め込む,まさにそういう時代だと思います。
さて,今日でterm3が終わり,2018年度の前期が終わることになります。1年生の皆さんは近江兄弟社中学生として初めての半年が終わり,中学1年生の折り返し点,2年生の皆さんは中学校生活の半分が終わることになり,中学校生活の折り返し点,3年生の皆さんにとっては中学校生活が残り半年になり,次の進路へのステップの時となります。前期と後期の間にはそれぞれの学年で面談が計画されています。この面談は振り返りの時であり,次への決意の時でもあります。皆さんにとって有意義な学期休みになるように心から願っています。

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