いのちの光 学園牧師のメッセージ

メッセージ

2015/06/09
~『失敗者の自叙伝』に学ぶ~(11)

社会の改善のために奉仕する

「私に与えられた使命は、種々の職業を通じて、人間生活基準となるようなキリスト的生活の徹底的な実践にあるということが明らかになってきた。世の多くの実業家や、農、工、その他に従事する人々は、ある特殊な職業は別として、自分たちのような仕事の中でキリスト精神に縛られては、とても満足な世渡りができないということを考えたり語ったりしているが、はたしてキリストの精神が一般の生活に適用できないか、自分が一つ実験してみたいと考えた。」

ヴォーリズのこの言葉は、日本における彼の働きを特徴づけるものであり、【近江兄弟社の根本主義】の一つとして記されているところです。「近江兄弟社の伝道の本来の方法は、福音の実証であって説教は第二であります」と明確に述べられていまが、言葉や理屈ではなく、人々の目に見える形で、手で触れる形でキリストの「隣人愛」の実践を本来の伝道の方策とすることでした。その具体的な形が、伝道月刊誌『湖畔の声』の発行、「人」「いのち」を大切にし、住む者の心を癒し、温かさを与えてくれる建築事業(現一粒社ヴォーリズ建築事務所)、病める者を「病客」として温かく寄り添って治療をし、多くの人々の社会復帰に貢献した「近江サナトリウム」(結核療養院、後のヴォーリズ記念病院)、YMCAなどの社会教育活動や近江兄弟社学園(現ヴォーリズ学園)などの学校教育活動として今に遺されています。

1916年に著わされた『近江兄弟社綱領』によれば、近江地方を中心に教派に関係なく、キリストの福音を宣伝実践し、「近江兄弟社教会」は設立せず、地方小都市農村に伝道することが記されています。注目すべき点は、この『綱領』の第6項において、近江兄弟社は社会改革のために努力する。節制、社会浄化、冠婚葬祭慣習の改善、体育ならびに衛生環境の改善につとめ、社会的に差別を受けている人々と共にその差別解消に努力する」と記されていることです。ヴォーリズの伝道の中核となったのは、広い社会的視野をもった「隣人愛」の実践。社会の片隅に追いやられている小さな存在に心を傾け、光をあてようとする社会改革。そのための具体的な奉仕の実践であり、「地の塩」「世の光」「からし種」「パン種」として地域社会の改善のために奉仕をすることでありました。「富やお金は、自分の快楽のために与えられているのではなく、社会の改善のために神が与えてくださったものです」と堅く信ずるヴォーリズの働きは、過酷な競争社会をもたらす資本主義社会の中にあっても「隣人愛」の実践は、可能であり、人々が兄弟姉妹として、共に生きる社会を構築できることを、単なる理想主義者としてではなく、現実的具体的な方策をもって証明する彼の生涯をかけた「実験」であったと考えられます。キリスト教一信徒として、また、YMCA活動家として、広い社会的視野のもとに、柔軟に地域社会の必要性を察知し、それに具体的に応えるために「隣人愛」の実践を貫いたヴォーリズの働きは、地域社会の街づくり、人づくりに大きな示唆を与えていると考えます。経済的価値最優先の経済至上主義の価値観が支配的である地球規模グローバリゼーション社会に生きる私たちに、まずは、足元から「人」や「いのち」の尊厳を守り、より小さなもの、より小さな存在こそがより大きなものを支えている事実を認識させてくれます。

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